【活動報告】“演劇の授業”の実践
こんにちは!フリンジシアターアソシエーションの大石です。
「子どもにアートを!」と頑張る先生を支えたい|京都市ふるさと納税×芸術教育支援~スクールファーストペンギンプロジェクト2023~
を応援いただき、ありがとうございます!
本日は“演劇的手法を用いた授業”の、2つの中学校での実践についてご報告させていただきます。
そもそも“演劇的手法を用いた授業”と聞いてもあまり馴染みがなく「どんなことをしてるんだろう?」と思われる方も少なくないのでは、と思います。
そういった皆さんにも、少しでも教室の雰囲気をお伝えできれば、と思いますので、ぜひご一読いただけますと幸いです。
▼京都市立朱雀中学校
道徳の時間を使って、「演劇創作を通じて、自分の考えや意見を伝え、互いの個性や立場を尊重し、広い視野に立って色々なものの見方や考え方がある事を理解することの喜びを感じられること」を目的に、50分×3回の授業を行いました。
全3回の主な流れは、
1回目:チーム創作に向けたコミュニケーションゲーム
2回目:コミュニケーションゲームの続きと、チーム創作
3回目:チーム創作の続きと、クラス内発表
でした。
1回目・2回目の授業
最初に「3回の授業を通してチーム創作を行い、最後の授業ではクラス内発表を行うこと」を共有し、その後、チーム創作に向けたコミュニケーションゲームを行いました。
コミュニケーションゲームにはたくさんの種類があり、授業の目的や講師の芸術的価値観によって、どのゲームを実施するかが変わります。(生徒の発言によって内容が変わっていくことも多々あります。講義形式ではなく、ワークショップ形式の授業ならではの展開だと思います)
ここでは、1回目と2回目の授業で行われたいくつかのコミュニケーションゲームについてピックアップします。
◉立ち座り:一見地味なようですが、とても盛り上がります。「全員が立った状態でスタートし、声などで合図無しで、自分のタイミングでひとりずつ席に座っていく。もし二人同時に座ってしまったら最初からやり直し」というルールで、“たけのこニョッキ”に近いゲームです。数人同時に座ってしまいそうになってギリギリ堪えるなど、スリリングな瞬間がたくさんありました。うまく全員が座れるだけでなく、一緒に座ってしまったとしても「やってしもた〜〜!」と盛り上がれるのが好きです。
◉ジェスチャー伝言ゲーム:教室での席順をベースに、列ごとにチームを作って行いました。読んで字の如く、講師が提示した“お題”を、言葉を使わずに身体の動きだけで伝えていくゲームです。今回は「釣り」「ラッパー」「ゾンビ」の3つのお題に挑戦しました。相手の事をよく観察し、自分にない発想の動きをコピーしたり、自分なりのアレンジを加えてブラッシュアップしたり、メンバー間での様々なコミュニケーションが生まれる、とても楽しいゲームです。
また、このゲームも簡単なようで意外と難しく、「釣り」の竿を投げている動きが“刀”に見えたり、釣り上げている動きが“何かを掻き混ぜている”ように見えたり、チームによって色んなアイデアが生まれます。
伝える過程でどんどん形が変わっていくことも、このゲームの魅力だと思います。作品を作っていく時、一人のアイデアだけでなく、複数人のアイデアが擦り合わさることで、チーム全員の全く想像していなかった作品が完成するのだと思います。
◉人間知恵の輪:複数人で輪になり、お互いの左手と右手、右手と左手を繋ぎ、絡まった腕を解いていくゲームです。最初は2人1組になり、徐々に4人→8人と増やしていきます。僕はこのゲームを「色々動きながら試してみて、違うと思ったら別の方法を試してみる」というトライ&ディスカバリーの実践と、「どんなに複雑に絡んでいても、ひとつひとつ丁寧にほぐしていったらいつかは解ける」と捉えて、チーム創作の思考を身体に置き換えて実施しています。
最終的には、早く終われたチームが他のチームの様子を見ながら「この手、どうにかしたいな」「ここで跨いでみたら?」など、チームの垣根を超えてワークを楽しみました。
2回目・3回目の授業
コミュニケーションゲームを終えたら、いよいよクラス内発表に向けて創作を開始します!
創作にあたっては、「イスのワーク」と呼んでいるオリジナルのテキストを使用します。このテキストには“ト書き”と呼ばれる、役者の動きを指定したもの(「役1・役2、座っている」など)が書かれております。これをベースに、チームごとに“設定”や“セリフ”などを考えていきます。
2回目の授業では残り時間が20分程度であったため、
・設定を決める
・どの動きをする“役”をやるか、決める
・(可能なら)セリフを考える、立って練習する
を目標に、それぞれのチームに分かれて話し合うことを行いました。
まずは設定を煮詰めるチーム、動きながらセリフを考えていくチームなど、それぞれが自分たちの得意なやり方を模索しながらの創作となりました。
そして3回目の授業では、コミュニケーションは行わず、チーム創作の時間から始まります。
残された創作の時間は15分間。どのチームも、一度完成したらそれで終わるのではなく、何回も繰り返し練習をしながら完成度を高めていっていたことが印象的でした。
発表の時間には「満員のバス」「サウナ」「電車」「椅子を占領している集団」「椅子取りゲームをやる生徒」など、いろんなシチュエーションが登場しました。
子どもと老人の身体の状態・声の出し方の違いを表現するチームや、あえてセリフを減らして無言の間を作ることで気まずさを表現するチームなど、いちアーティストとしても、見ていて刺激的なシーンがたくさんありました・・!
▼京都市立西京極中学校
総合の時間を使って「探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成すること」を目指し、100分×1回の授業を行いました。
このように、先生や学校の希望によって授業の回数を調整し、講師はそれに合わせたプログラム運営をします。
西京極中では、はじめに30分程度のコミュニケーションゲームを行い、その後チームに分かれて創作を行いました。
ここでも、いくつかのコミュニケーションゲームについてご紹介いたします。
◉拍手回し/目線回し/あいさつ回し:椅子を持って車座に座り、隣の人に向かって色々なものを回します。言葉は使わずに手拍子のタイミングを合わせたり、目と目をしっかり合わせて目ヂカラを回したり、「おはよう」「おっす!」のような挨拶を回したり、etc..
このクラスは、特に拍手回しのテンポがとても早く展開しました。「なぜこんなにテンポが早くても成立できたんだろう?」と問いかけてみたところ「天才だから」「リズムができていたので、それに乗っかっていったから」などのアイデアが出ました。このワークは同じクラスでやっても毎回違ったリズムになりますし、早くなければいけないという事もないのですが、“なぜ上手くいった/上手くいかなかったと感じたんだろう”と考えることが楽しいゲームだと思います。
また、テンポよく進んでいても盛り上がり、リズムが合わなかった時も同じぐらい盛り上がりました。必ずしも“上手くいっている”ことが正解ではない。演劇創作も“上手い演技”だけではなく、“その場で起こっていること”を全員が共有することが大切なのじゃないかな、と、そんな話をしました。
◉エナジー回し:この日の当初のタイムスケジュールでは、あいさつ回しの後、ジェスチャー伝言ゲームを行う予定でした。しかし、拍手回しの前の生徒からのある発言を受け、最後に“エネルギーのかたまり”をイメージして回してみました。
基本的には横の人に回すというルールでしたが、生徒の遊び心が発生し、「向かいの人に投げ渡す」という動きがいくつも生まれました。
身も蓋もないことを言ってしまえば、ここで回している“エナジー”は空想のものであるのですが、飛ばす側と受ける側のリアクションの積み重ねでなぜか本当にそこにあるように感じられる、不思議な体験をみんなで共有しました。
コミュニケーションゲームの後は、チーム創作に入ります。
今回の創作でも「イスのワーク」を行いますが、このクラスでは“ト書き”のテキストを提示した後、休み時間までの数分を使ってチームごとに「座るところがある場所」についてブレインストーミングを行い、クラス全体で共有しました。
休み時間が明け、2コマ目にチーム創作と発表を行います。今回のクラスの創作時間はトータルで25分間という、決して長いとは言えない時間でしたが、15-20分程度でほとんどの班が作品を完成させ、その後も繰り返しの練習によって精度を高めていました。
今回生まれた作品では「席を占領している人たちと、それをスマホで撮影する人」「名探偵の登場するサスペンスもの」「悪口を言っていたら本人が来てしまう」「ガラの悪いお客が来て緊張する店内」「回送電車に乗ってしまった人たち」などのシチュエーションが登場しました。教室のドアを舞台装置として使用するなどの工夫が見られ、観客として見ている自分も同じ店内や電車の中にいるような体験をしました。
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両校とも、授業の終了後に担任の先生とお話をさせていただきましたが、その際に「まだ担任を持って日が浅いが、(このクラスの生徒が)こういう一面もあるのかと、とても驚いた」「生徒が楽しそうに創作を進めており、こちらも見ていて嬉しくなった。中2に上がってクラス替えをして、まだお互いのことを知らない生徒同士もいる状態でこの授業をできたのもとても良かった」という旨のご感想をいただきました。
演劇の授業実践のプログラムを通して、子どもたちがいつもとは違う環境で、お互いの価値観を知り、リスペクトし、そんな中で自分やクラスメイトの魅力や新しい一面を再発見できれば、これ以上の喜びはありません。
そして、それと同じぐらい、ご多忙な中、普段の業務の合間を縫ってスケジュール調整をしていただき、授業の場を提供してくださった先生方に喜んでいただけると、この取り組みをやっていて良かったと思えます。
引き続きこの活動を、見守っていただけますと幸いです!